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『中国のインターネット史 ワールドワイドウェブからの独立』


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『中国のインターネット史 ワールドワイドウェブからの独立』

 

JUNETやWIDEから始まる日本のインターネットの歴史、あるいは昔々の名番組『電子立国日本の自叙伝』にみる半導体の歴史、『新・電子立国』にみるパソコンやソフトウェアの歴史はあまりにも有名であちこちで語り尽くされているが、中国のインターネットの歴史を紹介した本はあまりにも少ない。この本は、そんな中で画期的な本だと思う。IT以前のファミコン(もどき)やVCDの流行った時代、実はかなり古かったレノボの創業時代から2014年、2015年の現在に至るまでの流れが時系列で非常に分かりやすく書かれている。

この本を読んでみたいと思ったのは、中国のネット規制に日常的に不便を感じすぎるくらいに感じすぎるから。中国オフショア企業とやりとりする中でも、
・Dropboxでファイルのやりとりをしていたら、ある日突然中国当局に規制されて、使えなくなってしまった。
・Skypeで文字チャットをするとき、どうも中国とやるときだけ、「相手が入力中です」と表示されてから文字が表示されるまでにかなりの時間がかかるように感じる(間で検閲が入っているっぽい)。
・実装方法の詳細を打ち合わせしているとき、「このURLを見てください」と送ったURLが先方で開けないケースもたまにある(なんとGitHubも規制されている!)
等々、イライラすることはあまりにも多い。
また、実際に打ち合わせ、視察等で中国に行ったときも、自分の会社メールをGoogle Appsにしてるため、メール自体にアクセスできない。アクセスするためにVPNに接続しても、VPNの接続が安定しない。ついこの間、今年の3月に中国に行ったときには、VPNがこまめに切断されてしまう。どうも、当局がVPNの切断までをやりだしたようだ・・・・・等々、仕事をする上でお話にならないことも多々ある。

さて、この本が、上記のイライラに何か解決をもたらしてくれるかというと、そんなことはない。ただ、なるほどねと納得はさせられる。中国のGreat FireWallの責任者は元々エンジニアだったが、仕事が評価されてか中国全人代のメンバーに選出されると、途端に発言が政治的になってきたという。よりセキュリティに完璧さを求め、その結果がVPNの切断にまでいっているのだろう。

日本に遅れること数年、2000年になってようやく盛り上がってきた中国のインターネットもいまや利用者は4億にも5億にも達する。元々はYoutubeやTwitterやFacebookのぱくりとして始まった中国国内のサービスも、いまやこの数億のユーザーが使用するまでになっている。中国は中国だけでやっていけるのだ。中国ではAndroidのアクティベーションをするのにGoogleアカウントではなく、独自のアカウントを使っている。iPhone用のサーバーも中国国内に用意されている。すべてが中国仕様になっている。中国は中国だけでやっていけるのだ。中国は中国だけを考えればよい時代になっており、「世界とつながる」方向に回帰することはないのではないか、この本を読むとそんな気にさせられてくる。

『政府に誘導された、「中国人の」「中国人による」「中国人のための」コンテンツやサービスしかなくとも、それらを利用し、消費するぶんには、中国のインターネットは十分に快適で豊穣な空間なのです』(同著)

中国はワールドワイドウェブからの切り離しに見事に成功した。中国を見習って、同じような動きをしていく国も今後は出てくるだろうと、著者は見通しを語っている。世界の動きを見ているとグローバル化も一服してきているので、この論には同感。

開かれた、誰も統治できない空間としてのインターネットは残り続けるだろうが、確実にしめつけも厳しくなってくるとは思う。自分の利用しているサービスに世界中どこからでもアクセスできるのは当然だという意識を捨てて、使えない場合にどうするかまで常に考えていかないと、グローバルの仕事ができなくなってきているのかもしれない。